
| UL: では、まずはクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield)社について、そしてセルフストレージ業界との関係について教えていただけますか。
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド社は、世界的な不動産サービス会社です。不動産の評価や賃借、売買、資産管理、物件管理、プロジェクトや開発管理といった事業を展開しています。また、投資家の皆様が日本や世界のセルフストレージ資産を購入するサポートも行っています。世界60カ国以上で50,000人以上の社員が働いている会社です。
| UL: 日本におけるセルフストレージの需要の言動力は何だとお考えですか。
一般的には、海外と同様にセルフストレージの需要は、4Dとも呼ばれているDivorce(離婚)、Death(死)、Downsizing(縮小)またはDensity(人口密度)、DisplacementまたはDislocation(転居)の4つのライフイベントです。その一つ、「死」とは、家族の誰かが亡くなることを指し、遺族が不動産を売却する予定がある場合などに一時的にセルフストレージの需要が発生します。建物を明け渡すために荷物を移動させるのです。
「離婚」は、夫婦が別れる際に同居していた家から引っ越すとき、財産分与が決まるまでの間、あるいは単に狭い部屋に引っ越すことでかさばるものを保管するためのスペースを確保するために、セルフストレージを利用するケースが多いです。
また、日本では、人口密度がかなり大きな需要要因と言えます。香港ほどではないにせよ、日本の大都市圏のマンションは欧米の都市と比べるとかなり狭いです。自宅の収納が限界になったとき、セルフストレージを活用しようという需要が生まれます。
最後のDは「転居」です。特にコロナ禍の今、セルフストレージの需要が高まっています。以前は、毎日オフィスに通勤するのが普通で、実際首都圏で在宅勤務という柔軟性を提供していた企業は1割にも満たなかったのです。それが、現在は多くの企業がオフィス勤務と在宅勤務を掛け合わせたハイブリッド型に移行していき、社員は、自宅で仕事するためにデスクやパソコン、モニターなどを置くスペースを確保しなければならなくなりました。家族で同じように在宅勤務をする場合は、人数分の場所が必要になります。また、自宅に多くの食料品を保管するようになった人も多く、よりスペースに対する需要が高まっているようです。フルリモートワークの人は、より緑豊かで広いスペースを求めて郊外に引っ越す傾向がありますが、週に数日オフィスに通勤しなければならない人は、都会に住んだ方が通勤時間が短くなるため効率的だと考え、都会に引っ越すという逆転現象が見られます。ただ、東京の住宅価格は過去最高水準にあるため、広い部屋を借りるよりも、小さめに抑えて、自宅の外にちょっとした収納スペースを確保するという人もいます。
| UL: では、日本におけるB2B企業のセルフストレージ需要については、どのような可能性があると思いますか。
もちろん、大きな可能性があると思います。もともとセルフストレージは、B2Cのビジネスモデルですが、皆さんもご存じのとおり、多くの企業がオフィスの縮小を実施または検討しています。例えば、富士通はパンデミック時にオフィスの面積を50%削減する計画を発表しました。社員に自宅で仕事をさせ、サテライトスペースを利用することで、人材を集め、既存の社員の定着率を高めるという狙いがあります。このようなオフィスの縮小がセルフストレージの需要をさらに高めることは言うまでもありません。
| UL: 日本で、セルフストレージは資本市場において魅力的な投資対象でしょうか。
機関投資家、つまり不動産ファンドや年金基金、保険会社などの大規模投資家は、オフィス、小売、物流、集合住宅の4つのセクターのいずれかに投資することが一般的です。セルフストレージは、いわゆる「オルタナティブ」投資に分類されるニッチなセクターの1つと考えられています。ライフサイエンス施設、医療センター、データセンターなどもオルタナティブ投資の分野に含まれます。セルフストレージ業界には大きな成長の可能性があり、少なくとも10年以上前から、そうした投資家の目に留まってきました。このアセットクラスは高い利回りが期待できることで知られており、オフィスや主要なセクターと比較して100ベーシスポイント以上になるものもあります。一般的に、セルフストレージの普及率はまだ1%未満であり、日本ではまだ黎明期の市場であると言えますが、大きな成長の可能性を秘めています。
日本のセルフストレージ市場には、必要資本の大きさからまだ大規模な投資は見られません。その理由は、機関投資家は、3,000万ドル、5,000万ドル、1億ドルといった多額の投資を好みます。しかし、セルフストレージの場合は500万から1,000万ドル程度です。これでは、投資家にとって効果的な分散投資とは言えません。彼らが興味を持つようなスケーラビリティはまだないのです。
次に、事業者へのアクセスも理由の一つです。セルフストレージ市場は、投資家にとってまだ新しいアセットクラスであり、積極的な運用が求められるため、投資家は事業者との協働を好むのです。また、ストレージの稼働率が85〜90%になれば、投資家が好む安定したインカムフローが得られますが、セルフストレージはまだB2Cが中心なので、スペースを埋めるのに1年以上かかることもあり、タイミングのミスマッチもあります。
アメリカやイギリスのような成熟した市場を見ると、セルフストレージは資本投資の対象になっており、特に投資家が大規模な事業者とパートナーシップを組んだ場合に、その傾向が見られます。重要なのは、事業者と投資家が良好な関係を築き、パートナーシップを築くことで、双方がWin-Winの関係を築けることだと思います。
| UL: 現在の経済・地政学的な状況を踏まえて、今後何か変化があるとお考えですか。
資本市場または投資市場は、パンデミックの最中であっても、ここ数年、例外的に好調に推移しました。小売業とホテル業を除けば、すべてのセクターで資本成長が見られました。実際、投資家はドライパウダー(待機資金)をたくさん残しており、物流施設や多世帯住宅への注目と投資が盛んに行われています。マクロ経済が弱まり、賃料が下がっているにもかかわらず、資本のウェイトは非常に豊富で、それが市場価格を押し上げているのです。
インフレによるサプライチェーンの混乱は、ロシアのウクライナ侵略によっても加速され、建設コストと日銀の金融政策によって決定される借入コストという不動産市場の2つの決定要因に影響を及ぼしています。今のところ、日銀は金融政策の変更を発表していませんが、もし金利が上昇すれば、貸し出しコストと投資家が期待する利回りに影響が出るでしょう。
企業物価指数を見ると、物流、原材料、建設資材、特に鉄鋼と石油のコストが大幅に上昇しており、すでにセルフストレージを含む多くの開発プロジェクトの収益に影響を及ぼしています。
| UL: セルフストレージ市場における投資家の次のステップは何でしょうか?
すでに数人の投資家が、セルフストレージをベースとした不動産ファンドを立ち上げる計画を発表しています。アメリカのような市場を見ると、セルフストレージは投資機会として確立されています。前述の通り、日本では規模が影響していて、まだこのような傾向は見られません。まずは10~20件のポートフォリオを構築する必要がありますが、現在すでに取り組み始めている企業がいます。
例えば、自社でセルフストレージを保有する大手事業者のエリアリンク株式会社は、不動産私募ファンドを立ち上げることを表明しています。報道によると、彼らは資産を投資家向けの不動産ビークルに移すことを計画しているようです。このようなセルフストレージの証券化は、日本ではあまり行われてこなかったので、これは心強いニュースです。このように多くの企業がファンドを立ち上げれば、セルフストレージ市場は大規模な機関投資家にとってより魅力的なものとなり、次のステージに向けた投資家・事業者・顧客のエコシステムが活性化されるでしょう。