
| UL:まずは、ご自身について、そしてProrize社について教えてください。
価格設定の科学と収益管理の応用は、私のキャリアを通じて常に情熱を傾け、注力してきたものです。 テキサスA&M大学で生産工学の博士号を取得した後、私はTalus社(現Blue Yonder社)という価格設定と収益管理の会社に入社しました。そこでは、航空会社やホテル、ゲーム、メディア、住宅産業向けに、この種のものとしては初の収益管理システムを開拓しました。Talus社の後は、Zilliant社にチーフ・プライシング・サイエンティストとして入社し、新しい価格最適化ソリューションをゼロから作り上げました。また、テキサス大学オースティン校とインディアン・スクール・オブ・ビジネスで収益管理の大学院レベルのクラスを教える機会にも恵まれました。そして2006年に、これらすべてを捨てて、収益管理会社であるProrizeを設立しました。
価格設定とは、複雑で多面的なものです。市場は流動的で、常に変化しています。多くの企業は、競合他社が価格を変更したとき、あるいは需要が低下したときに、何をすべきか分かっていません。過剰に反応したり、何もしなかったりして、収益の機会を逃してしまうことがよくあります。例えば、セルフストレージ業界では、価格が高く、稼働率が低い場合、企業は軒並み料金を下げる傾向があります。市場環境の変化にどのように対応するかは、適切なインプットがなければ推測の域を出ません。
私たちは、データ、科学、事実を用いて、当社のクライアントが市場の変化に過剰反応しないように促しています。詳細な情報、需要予測、推奨賃料を提供し、価格戦略に自信を持たせるのです。クライアントは、変更を手動で承認するか、自動承認するルールを設定することができます。当社のクライアントは、当社のプラットフォームを利用することで、最低でも10%の売上増と効率の向上を実現しています。
2017年には、住宅とセルフストレージ産業の収益管理プラットフォームに関する取り組みが認められ、国連やインテル、UPS、ヒューレット・パッカード、ゼネラルモーターズなどが過去に受賞した、国際的に権威あるデータサイエンス賞「フランツ・エデルマン賞」を受賞することができました。現在までのところ、収益管理会社でこの賞を受賞したのは当社だけであり、この功績を非常に誇りに思っています。
| UL: 予測や分析に使用しているデータのソースは?
複数のデータソースを利用しています。まず、クライアントから過去のユニット、賃貸履歴、キャンペーン等のデータを提供してもらいます。サードパーティの管理ソフトウェアを使用されている場合もありますが、当社ではそのほとんどのソフトウェアと完全かつ自動で統合できるよう設定しています。独自の社内システムをお持ちのクライアントもおり、その場合はそのデータを取得して活用しています。データにギャップや問題がある場合は、クライアントと協力して理解、解決に努めています。
また、Webスクレイピングにより競合データを入手しています。パートナーであるStorTrack社は、毎日世界中の競合レートをスクレイピングし、APIインターフェースを通じて自動的にフィードしています。また、人口統計データは、政府のサイトや、人口統計データを収集している他の企業からも入手しています。人口統計データは、需要が場所や人口、集客したい顧客のタイプに依存することが多いため、重要視しています。このように様々な場所からデータを取得していますが、本質的なデータの約90%は、クライアントの過去のデータから得ています。
| UL: 一般的に単発プロジェクトとして請け負うことが多いですか?それとも、継続的なパートナーシップを結んで業務を請け負うことが多いですか?
当社では、単発のプロジェクトとして取り組むことはありません。クライアントが当社と仕事することに同意されると、私達はまず、経営陣のビジョンと何を期待しているのかを聞き取ります。そして、現状と将来的な価格設定計画を理解し、データと技術環境を評価することで、事業全体のディスカバリープロセスを開始します。クライアントのビジネスに関する必要な情報がすべて揃ったところで、当社のサイエンティストたちが引き継ぎ、クライアント専用のシステムを構成し、クラウド上でプラットフォームにアクセスできるようにします。このシステムは、日々最適化されており、ウェブ上の家格実行システムに接続されます。現在、当社のセルフストレージ事業用プラットフォームは、5大陸19カ国にある30以上の大手事業者に毎日の賃料の推奨値を提供しています。当社のクライアントは10店舗から数百店舗を展開しているため、セルフストレージ業界における価格設定のベストプラクティスについて、多くの経験と蓄積された知識を持っているのです。
| UL: 北米のセルフストレージ業界について教えてください。
アメリカでは非常に堅調な産業です。正確な店舗数は不明ですが、全米で5〜6万店ほどが営業しています。米国では約11%の世帯がセルフストレージを利用しており、市場の認知度は非常に高いです。引っ越しや新築・改築、自然災害などの際に需要が発生するのが一般的で、非常に魅力的な市場です。
また、この業界は不況に強いです。人々が職を失うと、失業した人々が小さな部屋に引っ越したりするダウンサイジングが必要になるケースが多いため、セルフストレージへの需要が高まるのです。セルフストレージ業界は、最近大手投資家らも多く注目している分野です。
| UL: 他の地域、特にアジアや日本などはいかがですか?
アジアとアメリカの大きな違いは、アメリカでは価格が一元的に決められていて、交渉がほとんど行われていないことです。アジア、特にシンガポールなどでは、交渉が不可欠であり、人々は割引を期待しています。認知度もアメリカに比べてまだ低いように思います。ヨーロッパでは、セルフストレージという言葉すらない国もあります。また、アメリカのセルフストレージ市場は標準化が進んでおり、飽和状態です。他の国では、施設を増やすだけでもっと成長する機会があります。また、スペースの問題もあります。日本やシンガポールなどでは、スペースに限りがあり、新規に建設できる場所は限られています。そのため、既存の建物をセルフストレージにコンバージョンするケースが多く見られます。アメリカの次にセルフストレージの市場が成熟しているのはオーストラリア、次がヨーロッパ、そしてアジアです。日本は、アジアの他の国ともまた少し違います。
| UL: 他のアジア諸国と比べて、日本はどのように違うのでしょうか?詳しくお聞かせください。
日本はつい最近までデフレの環境にありました。文化的にも、既存顧客に対しては、よほどのことがない限り値上げには慎重です。また、私の知る限り、日本では他のアジア諸国に比べて価格交渉があまり行われていないように思います。
| UL: セルフストレージ事業者に対して、価格戦略への取り組み方についてアドバイスはありますか?
当社は19カ国に展開していますが、平均すると50%のお客様が6カ月以内に退去されます。市場によって異なりますし、8カ月になる市場もありますが、お客様の半分は短期間で退去してしまうのが現状です。20〜30%のお客様に至っては、3カ月以内に退去されるのです。ですから、まず先行する値引きに注意することです。需要を喚起するために過剰な値引きをすると、その顧客が早期に退去したときに、コストを負担することになりかねません。
逆に考えると、6〜8ヶ月以上滞在している顧客は、あなたの提供するサービスから価値を得ているのです。そうでなければ、サービスを使い続けることはないでしょう。もし誰かがあなたのサービスから価値を得ているのなら、これは収益化のチャンスです。既存顧客の価格を定期的に上げることを恐れてはいけません。今日のようなインフレ環境では、人々はより高い価格を期待するようになってきています。
また、自社製品をしっかりと理解することもシンプルですが、大事なことです。どのユニットも同じではありません。例えば、3平方メートルのユニットがあるとします。正門の近くにあるユニットもあれば、遠くて階段を上がったところにあるユニットもあり、それぞれ価値が異なります。価格による差別化を図りましょう。ユニットの大きさだけで価格設定を行うと、良い位置にあるユニットはすぐに売れてしまうのに対して、位置が悪い部屋は借り手がつかないという事態に陥ってしまいます。顧客はそれぞれ異なる価格感性を持っているのです。これを上手くセールストークに取り入れましょう。例えば「このユニットは1階で車寄せのあるので、割高になります。安いユニットをお探しなら2階がお勧めです」という感じです。
最後に、自社ウェブサイトで価格を表示することをお勧めします。競合他社に見られるからと、消極的になる人も多いでしょう。しかし、市場は常に変化しています。ミレニアル世代やZ世代は、わざわざ電話をかけて価格を聞くことを望んでいません。事業者がウェブサイトに価格を表示するようになってから、需要やコンバージョン率が増加するい例が実際に確認されています。すべてを表示する必要はありませんが、ウェブサイトにはある程度の料金情報を掲載すべきです。2000年代初頭、私は米国最大の賃貸住宅会社と同じような会話をしたことがあります。当初、そのクライアントは、アパートの賃貸料をオンラインで表示する初の企業になることを非常に躊躇していました。しかし、最終的に自社サイト上で価格を公開したところ、大きな成果を上げました。現在では、アメリカの主要な賃貸住宅事業者は、すべてオンラインで家賃を公開しています。また、実際にアパートを見なくても、オンラインで予約することができるようになりました。
少し前までは、このようなことが起こるとは誰も思っていませんでした。しかし、世界は変化し、よりデジタル化が進んできています。価格設定も同様で、デジタル化の大きな流れの一部に過ぎません。ぜひウェブサイトで価格を表示してみてください。特に、常に変化する市場環境に適応するための適切な価格設定アルゴリズムがあれば、需要やコンバージョンを向上させることができます。
| UL: 最後に、2023年以降の計画について教えてください。
当社は、非常に速いスピードで成長しています。私たちの目標は、セルフストレージ業界の価格設定と収益管理の起点になることです。私たちは、人工知能、機械学習、予測における最新の進歩を活用し、常にソリューションを改善しています。需要予測能力は価格設定に不可欠だと考えています。セルフストレージ業界で成長を続けたいと考えていますので、アパートや高齢者住宅など、他の賃貸部門にも事業を展開していきたいですね。長期的なビジョンは、賃貸業界における価格設定ソリューションの大手プロバイダーとなることです。